速度センサがないときのEdge 830の距離計算挙動
Garmin Edgeシリーズは、速度センサがペアリングされていない場合は、GPSから速度と距離を計算する。
しかしトンネル通過時などに距離が短くなる現象が過去に発生(BRM1024 埼玉600 アタック日本海、 BRM905 東京300 ウルトラオレンヂ)しており、その原因を調査した。
FITファイルの基礎
今回の分析では2020年のBRM1024 埼玉600 アタック日本海の走行ログのFITファイルとする。
FITファイルには基本的に以下の情報が1秒ごとに記録されている。
- 時刻
- 緯度
- 経度
- 距離(0.01m単位)
- 速度(0.001m/s単位)
- 高度(0.2m単位)
- 温度
その他、接続されたセンサに応じて、パワー、積算パワー、ケイデンスなどが追加される。
ここで、緯度経度と距離、速度が別々に記録されているのがポイントである。
緯度経度から計算される距離と、Edgeが計算する距離の関係
Edgeが緯度経度から移動距離をそのまま計算しているのであれば、前後の2地点の緯度経度から測地線距離を計算した値と、距離の増分は一致するはずである。
そこで、横軸に緯度経度から計算した測地線距離(m)、縦軸にEdgeの距離の増分(m)をプロットしたものが下図となる。
両者の距離が一致するのであれば、$y = x$上にすべての点が乗るはずであるが、$y = x$よりも下にも点がある。
すなわち、測地線距離よりも距離増分のほうが短い点が存在する。
(距離が小さいところでは$y = x$よりも上に点があるが、これは距離の精度が0.01mしかないことに由来すると考えられる)
Edgeが測地線距離よりも距離増分を短く計算する条件の探索
次に、どのようなときにEdgeが距離増分を短く計算するのかを調べた。
600kmの走行中、Edgeの距離増分と測地線距離の比の変化を示したのが下図であり、横軸が走行距離(m)、縦軸がEdgeの距離増分と測地線距離の比である。
このグラフから、Edgeは常に距離増分を短く計算するのではなく、特定の区間(特に123km~125km、213km~215km、302km~304km、374km~376km、432km、445km、465km~467km、512km~514km)に限定されていることがわかる。
また、このアタック日本海のコースは概ね片道300kmの往復コースとなっており、往路と復路で同じ場所を通過したときに、同じように距離が小さく計算されていることも見て取れる。
したがって、走行したコースの地理的環境が条件となっている可能性が高く、以下ではその条件を探っていく。
123km~125km区間
まず123kmから125kmまでの区間の距離増分と測地線距離の比の拡大図が下図である。
この区間は群馬側から三国峠へ至る登り道であり、途中にスノーシェッドが存在する区間である。
下図がこの区間の地図とスノーシェッドの位置を示したものである。
Edgeが距離を小さく計算した区間と、スノーシェッド内を走行していた区間が見事に一致した。
また、スノーシェッドでは側面から少し電波が入るため完全にはGPS信号をロストしなかったものの測位精度が低下したために、地図上の道から大きくそれていることも確認された。
213km~215km区間
もう1か所、215km~215km区間でも同様に確認する。
Edgeの距離増分と測地線距離の比の拡大図が下図である。
Google地図ではスノーシェッドが反映されていないため、航空写真と重ね合わせたものが下図となる。
少し見づらいが、航空写真からスノーシェッドが213.1km、213.4km、213.6km、213.9km地点に存在し、これもEdgeが距離を小さく計算した区間と一致した。
以上から、GPSの測位精度が低下したときにEdgeは距離を短く計算するという挙動が確認された。
考察
この「GPSの測位精度が低下したときにEdgeは距離を短く計算する」挙動は、直線上を移動するときに測位精度が低いとGPSの軌跡はジグザグになって実際よりも距離を大きく計算してしまうのを補正するため、と考えられる(下図)。
この補正がうまくいく場合もあるが、これまで検証した区間のように「本来のルートを挟むようにジグザグになるのではなく、片側に偏って測位した場合」「徐々に電波状況が悪化したために緩やかにずれて測位した場合」だと過剰に補正してしまうために結果として距離が短くなってしまうのだろう。
まとめ
これまでの議論をまとめると以下となる。
- Edge 830では速度センサがない時にGPSから速度と距離を計算する
- GPSの測位精度が低い場合、本来の測地線距離よりも短い距離が加算される
- この挙動は本来は測位精度低下時に距離が大きく計算されてしまうことを補正するためのものだが、これが状況によっては過剰に補正されてしまった結果であると考えられる
補足ながら、速度センサがあるときは、速度センサの値(より正確には、速度センサから送られるタイヤの回転数)から速度と距離の増分が計算される。